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2020.08.30 / ITベンダー・SI事業者

営業の知識やスキルの不足を自助努力のなさに帰する経営者や管理者の怠慢

「Armを知っている人は手を上げてください。」

大手、SI事業者の4年次営業職のための「最新のITトレンドとビジネス戦略」研修でこんな質問を投げかけた。残念ながら、30名ほどの受講者がいるのに手を上げる人は皆無だった。コンテナ、サーバーレス、ゼロトラストといった言葉についても尋ねてみたが、手を上げる人は、ほとんどいない。ちなみにこの会社のホームページの事業内容には、「クラウド化支援」や「ネットワーク構築」、そして「お客様のDXの実現に貢献する」という言葉が掲げられている。

「この程度のことも知らないなんて、勉強不足も甚だしい。」

「あまりに自覚がなさ過ぎる。もっと、自分で勉強すべきだ。」

「かれらの勉強不足が、新しいことに取り組めない原因だ。」

かれらの自覚のなさや、自助努力の欠如を残念に想い、憤りさえ感じる人もいるかも知れない。しかし、この現実の本質は、もっと根深いところにあるように思う。

入社4年目と言えば、仕事のやり方もわかり、忙しさの中にも達成感を感じられる時期だろう。同時に、会社の当たり前の日常に、自分も溶け込み、その会社の当たり前を、意識することなく、自然とこなせるようになっている頃でもある。

「世の中の動向に関心はなく、お客様から言われたことを粛々とやればいい」

そんな彼らの所属する会社の日常もまた、自然と身に付いていったのだろう。上司もまわりも関心がなければ、かれらが関心を持つことはないだろう。

営業として、与えられた予算を達成することに専念するのは当然だ。そんな彼らのお客様の大半は情報システム部門である。情シスは、新しいことには消極的であり、そのほとんどは既存の業務の延長でしかない。そんな仕事の納期を守ることや、何とか予算に納めることに苦労し、事務処理や報告、説明のための業務に忙殺され、あっという間に時間が過ぎて行く。気がつけば、浦島太郎となっているわけだが、そのことにさえ気付いていない。

このような現実があるにもかかわらず、「常識がない」や「もっと勉強すべきだ」と、彼ら個人の問題に帰してしまうのは筋違いではないか。

DXとは、デジタル・テクノロジーを駆使して、事業の業績を改善、向上させる取り組みだ。IoTやAI、クラウドやネットワークなど、デジタル・テクノロジーの急速な進化と、これに伴うITアーキテクチャーの非連続的な変化が起きようとしている。この現実に対処するには、新しいテクノロジーに向きあうだけでは難しい。そんな時代にふさわしい、人の考え方や組織の振る舞い、あるいは、働き方の常識をも変えてゆかなければ、DXの実現は見通せない。ましてや、自らがこの変革に取り組まずして、「お客様のDXの実現に貢献する」など、無理な話だろう。

この現実を受けとめることなく、これまでのやり方の延長線上で、何とかしようとしている経営者や管理者が、若い世代から、新しい常識に向きあう機会を奪っていると考えるのは、いささか考えすぎだろうか。

もちろん、営業にとって数字の達成は絶対だ。新しいことに取り組むことが、数字に結びつくのであれば、積極的に取り組むだろう。しかし、そんな見通しもなく、限られた時間の中で、確実に数字をあげるのであれば、数字が読める情報システム部門に時間を割こうとするのは、自然なことだ。

「もっと、事業部門にアプローチせよ!」

情シスだけを相手にしていては、もはや数字を増やすことができない。だから次は事業部門へ行けという。そのための看板として、DXを掲げるわけだが、実態が伴わないDXにどれほどの説得力があるというのか。

そもそもどこに行けばいいのだろう、どんな案件があるのだろう。そんな顧客を、自分で開拓しろという。実に効率が悪い。理屈は分かるが、モチベーションは高まらない。当然、彼らの語るべき言葉も磨かれず、数字の読めるこれまでの仕事に埋没してしまう。

そもそも、営業にデマンド開拓を過度に依存するのは現実的ではない。営業の役割は、既存の顧客の案件を刈り取り、数字にすることだ。既存の顧客の文脈から、新たな案件を創出することもあるが、まったく新しい顧客から案件を見つける、あるいは創り出すとなると、相当の覚悟と努力が必要となる。これを根性論というか、精神論で、すべての営業に一律求めるというのは、まったく合理性の欠く話しだ。

本来、このような仕事は、デマンド・センターが担う仕事だ。デマンド・センターの役割は、「見込み客データの収集(Lead Generation)」、「見込み客の啓蒙と育成(Lead Nurturing)」、「見込み客の絞り込み(Lead Qualification)」だ。これら一連の手順を行い、「案件創出(Demand Generation)」することが、デマンド・センターの目的だ。

「ここにおよそ〇〇〇円規模の確度の高い案件があります。具体的には、こんな状況であり、お客様はこんな期待を持っています。」

具体的な数字が見込める案件があれば、営業のモチベーションは上がる。案件を探さずとも既に案件があり、営業目標の達成にも貢献できるとなれば、営業は、積極的に案件獲得に向けて努力するだろう。当然、そこで数字を上げるために必要な知識や常識、そして言葉を磨くだろう。

仕組みを作り、組織を自律的に機能させることが、経営者や管理者の役割のはずだ。その役割を棚上げし、精神論と現場の自助努力に期待するのは、いかがなものかと思う。

かつては、情シスに頼り、言われたことを誠実にこなしていれば、数字は達成できた時代もある。しかし、ITが社内業務の合理化や効率化の手段から、競合他社との差別化や顧客の創出、体験価値向上のために使われる時代となり、意志決定の重心は、情シスから事業部門へと移りはじめている。加えて、先に申し上げたテクノロジーの進化とITアーキテクチャーの変化に、伝統的な営業スタイルでは対処できない。もはや営業の役割は、顧客に新たな時代の到来を告げ、これにどう対処すべきかを提言し、顧客の事業の未来を教える教師となることだ。これをきっかけに、顧客と対話をはじめ、一緒になって課題やテーマを見つけ出してゆくことだろう。

経営者や管理者が、テクノロジーの進化とITアーキテクチャーの変化を深く理解し、現場がこれにふさわしい動きかできる仕組み作ることだ。そのための努力を怠り、事業部門の開拓やDX案件の獲得を営業個人に丸投げし、そのための勉強の機会も自助努力に頼るというのは、おかしな話しであろう。新しいことを学ぶことに価値を見いだせず、そんな雰囲気さえない企業や組織で育つ若手が、「Armを知らない」は、仕方のないことなのかも知れない。

自助努力の大切さを否定するつもりは毛頭ない。しかし、それだけに頼っていては、組織は動かない。もちろん、DXというパラダイムシフトをビジネスのチャンスとして、引き寄せることはできない。

テクノロジーの進化とITアーキテクチャーの変化にもっと真摯に向き合うべきだ。そして、これにふさわしいビジネス・プロセスに定義し直すべきだろう。

  • デマンドセンターの設置
  • 営業活動プロセスの作り替え
  • 業績評価基準の見直し
  • 組織・体制の変更
  • 人材育成計画の再設計 など

「Armを知らない」は、経営の怠慢に他ならない。そう考え、いまの自分たちの現実に真摯に向き合うべきだ。なかなか事業部門へのアプローチがうまくいかないこと、営業の知識やスキルが不足していることを、彼らの自助努力にしてしまうSI事業者に、DXなど語る資格はないだろう。もっと、本質的に、そして根本的に、自分たちの事業と経営の行く末を考えてみてはいかがだろうか。

【募集開始】第35期 ITソリューション塾

オンライン(ライブと録画)でもご参加いただけます。

ITソリューション塾・第35期(10月7日開講)の募集を開始しました。

新型コロナ・ウイルスは、肺に感染するよりも多くの人の意識に感染し、私たちの考え方や行動を変えつつあります。パンデミックが終息しても、元には戻ることはありません。私たちの日常は大きく変わり、働き方もビジネスも変わってしまうでしょう。これまでの正解は、これからの正解と同じではありません。ならば、事業戦略も求められるスキルも変わらざるを得えません。

本塾では、そんな「これから」のITやビジネスのトレンドを考え、分かりやすく整理してゆこうと思います。

特別講師

この塾では、知識だけではなく実践ノウハウについても学んで頂くために、現場の実践者である下記の特別講師をお招きしています。

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    • 戦略スタッフ・サービス 代表取締役 戸田孝一郎 氏
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  • 日程 初回・2020年10月7日(水)~最終回・12月16日(水)
  • 毎週18:30~20:30
  • 回数 全10回+特別補講
  • 定員 100名
  • 会場 オンライン(ライブと録画)および、会場(東京・市ヶ谷)
  • 料金 ¥90,000- (税込み¥99,000)
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    • 資料・教材(パワーポイント)はロイヤリティフリーにて差し上げます。

詳しくは、こちらをご覧下さい。

ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー

【8月度のコンテンツを更新しました】
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新規プレゼンテーション・パッケージを充実させました!
・「新入社員研修のための最新ITトレンド研修」の改訂
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・ローコード開発についてのプレゼンテーションを充実
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新入社員研修
【改訂】新入社員のための最新ITトレンドとこれからのビジネス・8月版
講義・研修パッケージ
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとこれからのビジネス*講義時間:2時間程度
> 自動車関連製造業向けの研修パッケージ
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【改訂】総集編 2020年8月版・最新の資料を反映(2部構成)。
【改訂】ITソリューション塾・プレゼンテーションと講義動画 第34期版に差し替え
>これからのビジネス戦略
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ビジネス戦略編
【改訂】デジタルとフィジカル p.9
【改訂】イノベーションとインベンションの違い p.10
【新規】DXを支えるテクノロジー p.18
【改訂】DXはどんな世界を目指すのか p.19
【新規】「モノのサービス化」の構造 p.46
【改訂】ビジネス価値の比較
【新規】ビジネス価値のシフト p.48
【新規】自動車/移動ビジネスの3つの戦略 p.49
【新規】ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用 p.137
【新規】ナレッジワーカーの本質は創造的な仕事と主体性 p.138
【新規】コンテクスト文化から考えるリモートワーク p.139
【新規】リモートワーク成功の3要件 p.140

サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【改訂】IoTの定義とビジネス p.15

サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】ニューラル・ネットワークの仕組み p.68

クラウド・コンピューティング編
【改訂】クラウドに吸収されるITビジネス p.106
【新規】クラウド・ネイティブへのシフトが加速する p.107

開発と運用編
【改訂】開発の自動化とは p.94
【新規】ノー・コード/ロー・コード/プロ・コード p.95
【新規】ローコード開発ツール p.96
【新規】ローコード開発ツール p.97
【新規】ローコード開発ツールの 基本的な構造 p.98

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